2000年02月14日
ロンドンのアラブ料理研究家(その1)
お店にいらっしゃるお客様の中で、いわゆる常連客というのがある。
定期的に月1回来る人。たて続けに来てぱったり来なくなったかと思うと、またたて続けに来る人。そして、わが食卓のようにして、頻繁に来る人。その頻繁の客とも言える石野さんがある日、
「ユーコさん、アラブのいろんな国へ行くよりさぁ、僕の友人のお母さんがロンドンに住んでて、アラブ料理研究家なんだ。イラク人でね。スープだけでも40種類くらい作れるんだよ。いっつもたくさん作ってて、すっごぅーく美味しいんだ。そこを紹介してあげるから行きなよ。その方がいっぺんにすむしね。そしたら僕もここで食べられるしね」
「いつもって、いつもたくさん作ってるの?毎日?私が行っても迷惑じゃない?」
「大丈夫。イラク人の長みたいな人の奥さんで、いつもお客さんがいっぱいで、いつも作ってるんだ」
「あのさぁ、自分が食べたいんで私を送りこもうっていう魂胆でしょ?!」
「へへへ…」
「じゃぁ、行く!」
いつもののりで、多忙なクリスマスが終わって店を4週間ほど閉めた。
店を始めて、初めてとも言えるほど優雅な正月をバンコックで友人達と迎え、ひとりロンドンに向かう。1月2日である。
約2週間の滞在は、料理研究家であるブハイナさんの家から歩いて7分のアークトンタウンのBandBに滞在する。
朝8時にBandBの前で、タクシーから降りたのはいいが、まだ薄暗く霧もかかっていて、人も通っていない静かなところだ。いくらブザーを押しても誰も出てこない。すぐ近くに地下鉄の駅が見える。荷物をガラガラ引っ張って駅の公衆電話から電話する。
中国系の中年の女性が出てきて、やっとドアを開けてもらう事ができた。
部屋はすごく粗末だ。なんかうす汚い。暖房がすごく良く効いている。でもベットは清潔だから我慢しなければ…。それにしても1日前とはえらい違いだ。プールサイドのキャンドル越しの食事。ベットの上のチョコレートと1輪の蘭の花。シャンパンと爆竹で迎えるうるさい新年。まッ、これが現実なのだ。
朝食を食べさせてくれるらしいので、さっそく食堂へ。トーストは薄くてカリカリでとっても美味しく、ゆで卵も良いゆで具合でいい。ジュースもフレッシュで美味しい。イギリスってものすごく食事がまずいと聞いていたけど、朝食は美味しいじゃない。
11時位になったら、ブハイナさんに電話しようかなんて思っていたら、10時半に先方から電話がかかってきた。11時半に迎えに来てくれるということだ。ちょっと緊張する。良い人だったら良いんだけど…。
頭の良さそうなきびきびとした動作の女性が車から降りてきた。この人だな…。やっぱり。素敵な感じ良い人だ。挨拶のあと、今日はバクラワを作りましょうという。さっそく料理の話しをしだした。私の伝言が石野君を通じて、正確に伝わっているのを確信する。
「どんなに、こき使ってもいいから、たとえ一つでも多く料理を教えてください」という伝言だ。
今はちょうど、イスラム教の断食月ラマダーンの真っ最中だ。ラマダーン明けの夕方4時半から食事が始まるのだが、その4時半にイラク人の親戚一同が集まってニューイヤーパーティーをするらしい。その為、持参するバクラワを作り始める。バクラワとは、中東一帯、そしてギリシャでもよく食べるパイ状のお菓子だ。
まずバターを250g溶かす。直径28cm位のパイ皿にバターを塗る。フィロペストリーを2枚ほど敷き、上に溶かしバターを刷毛でまんべんなく塗る。これを6回ほど繰り返す。胡桃3カップをスピードカッターにかける。この胡桃にグラニュー糖1カップ、カルダモン大さじ1杯強、ローズウォーター大さじ1杯弱を入れ、よく混ぜる。これをフィロペストリーの上にまんべんなく敷き、再びその上にフィロペストリー、バターと10回位繰り返す。放射状に包丁で切り込みを入れ、オーブンで30分位焼く。その間にシロップを作る。シロップは3カップのグラニュー糖に2カップの水を火にかけ、テーブルスプーン2杯のレモンジュースを加え、冷やしておく。焼きあがったバクラワに冷やしたシロップを満遍なくかける。ジュッという音と共にとっても甘い香りがたつ。すごく甘そうだ。つまみた〜い。
余ったフィロペストリーの皮を使って、蜂蜜や生クリームとのパイも作る。
ブハイナさんはものすごくパワフル。身体も締まっていてバネがある。そして、料理を作るスピードも迷いがなく速い。ここの台所は広くて40から50u位あるだろうか。冷蔵庫も大きいのが4台、冷凍庫も2台。そして食品庫も2カ所ある。台所の大きな窓から庭が見える。目の前に噴水が、その向こうに芝生の庭が広がる。ロンドンにしてはめずらしい青空だ。
車で15分程の住宅街の中の1軒に入った。この家でパーティらしい。すでに20人以上の人がいる。ひとりひとり紹介されるけど、一人も名前を覚えられない。男性はというと髭をたくわえていて、皆んな同じ顔に見える。一応この挨拶だけは知っている。「アッサラム アレイクム」答える方は「アレイクム サッラーム」と言う。
テーブルの上はものすっごい量の食べ物がすでに並んでる。そこを通り越してキッチンを覗く。鍋をひっくり返して大皿の上にドルマを移す作業をしている。ドルマとは、スパイスや野菜で炊いたご飯の詰め物のこと。葡萄の葉のドルマ、ズッキーニ、茄子、キャベツ、トマト、玉葱にも詰めてある。甘酸っぱいタマリンドの香りがする。いったい何人分だろう。皿は直径50pくらいある。その皿に山盛りだ。私一人興奮して写真を撮っていると、8歳と6歳位の男の子達が私をつつきながら、「クッペ」と言って茶色の卵形のものを差し出した。
定期的に月1回来る人。たて続けに来てぱったり来なくなったかと思うと、またたて続けに来る人。そして、わが食卓のようにして、頻繁に来る人。その頻繁の客とも言える石野さんがある日、
「ユーコさん、アラブのいろんな国へ行くよりさぁ、僕の友人のお母さんがロンドンに住んでて、アラブ料理研究家なんだ。イラク人でね。スープだけでも40種類くらい作れるんだよ。いっつもたくさん作ってて、すっごぅーく美味しいんだ。そこを紹介してあげるから行きなよ。その方がいっぺんにすむしね。そしたら僕もここで食べられるしね」
「いつもって、いつもたくさん作ってるの?毎日?私が行っても迷惑じゃない?」
「大丈夫。イラク人の長みたいな人の奥さんで、いつもお客さんがいっぱいで、いつも作ってるんだ」
「あのさぁ、自分が食べたいんで私を送りこもうっていう魂胆でしょ?!」
「へへへ…」
「じゃぁ、行く!」
いつもののりで、多忙なクリスマスが終わって店を4週間ほど閉めた。
店を始めて、初めてとも言えるほど優雅な正月をバンコックで友人達と迎え、ひとりロンドンに向かう。1月2日である。
約2週間の滞在は、料理研究家であるブハイナさんの家から歩いて7分のアークトンタウンのBandBに滞在する。
朝8時にBandBの前で、タクシーから降りたのはいいが、まだ薄暗く霧もかかっていて、人も通っていない静かなところだ。いくらブザーを押しても誰も出てこない。すぐ近くに地下鉄の駅が見える。荷物をガラガラ引っ張って駅の公衆電話から電話する。
中国系の中年の女性が出てきて、やっとドアを開けてもらう事ができた。
部屋はすごく粗末だ。なんかうす汚い。暖房がすごく良く効いている。でもベットは清潔だから我慢しなければ…。それにしても1日前とはえらい違いだ。プールサイドのキャンドル越しの食事。ベットの上のチョコレートと1輪の蘭の花。シャンパンと爆竹で迎えるうるさい新年。まッ、これが現実なのだ。
朝食を食べさせてくれるらしいので、さっそく食堂へ。トーストは薄くてカリカリでとっても美味しく、ゆで卵も良いゆで具合でいい。ジュースもフレッシュで美味しい。イギリスってものすごく食事がまずいと聞いていたけど、朝食は美味しいじゃない。
11時位になったら、ブハイナさんに電話しようかなんて思っていたら、10時半に先方から電話がかかってきた。11時半に迎えに来てくれるということだ。ちょっと緊張する。良い人だったら良いんだけど…。
頭の良さそうなきびきびとした動作の女性が車から降りてきた。この人だな…。やっぱり。素敵な感じ良い人だ。挨拶のあと、今日はバクラワを作りましょうという。さっそく料理の話しをしだした。私の伝言が石野君を通じて、正確に伝わっているのを確信する。
「どんなに、こき使ってもいいから、たとえ一つでも多く料理を教えてください」という伝言だ。
今はちょうど、イスラム教の断食月ラマダーンの真っ最中だ。ラマダーン明けの夕方4時半から食事が始まるのだが、その4時半にイラク人の親戚一同が集まってニューイヤーパーティーをするらしい。その為、持参するバクラワを作り始める。バクラワとは、中東一帯、そしてギリシャでもよく食べるパイ状のお菓子だ。
まずバターを250g溶かす。直径28cm位のパイ皿にバターを塗る。フィロペストリーを2枚ほど敷き、上に溶かしバターを刷毛でまんべんなく塗る。これを6回ほど繰り返す。胡桃3カップをスピードカッターにかける。この胡桃にグラニュー糖1カップ、カルダモン大さじ1杯強、ローズウォーター大さじ1杯弱を入れ、よく混ぜる。これをフィロペストリーの上にまんべんなく敷き、再びその上にフィロペストリー、バターと10回位繰り返す。放射状に包丁で切り込みを入れ、オーブンで30分位焼く。その間にシロップを作る。シロップは3カップのグラニュー糖に2カップの水を火にかけ、テーブルスプーン2杯のレモンジュースを加え、冷やしておく。焼きあがったバクラワに冷やしたシロップを満遍なくかける。ジュッという音と共にとっても甘い香りがたつ。すごく甘そうだ。つまみた〜い。
余ったフィロペストリーの皮を使って、蜂蜜や生クリームとのパイも作る。
ブハイナさんはものすごくパワフル。身体も締まっていてバネがある。そして、料理を作るスピードも迷いがなく速い。ここの台所は広くて40から50u位あるだろうか。冷蔵庫も大きいのが4台、冷凍庫も2台。そして食品庫も2カ所ある。台所の大きな窓から庭が見える。目の前に噴水が、その向こうに芝生の庭が広がる。ロンドンにしてはめずらしい青空だ。
車で15分程の住宅街の中の1軒に入った。この家でパーティらしい。すでに20人以上の人がいる。ひとりひとり紹介されるけど、一人も名前を覚えられない。男性はというと髭をたくわえていて、皆んな同じ顔に見える。一応この挨拶だけは知っている。「アッサラム アレイクム」答える方は「アレイクム サッラーム」と言う。
テーブルの上はものすっごい量の食べ物がすでに並んでる。そこを通り越してキッチンを覗く。鍋をひっくり返して大皿の上にドルマを移す作業をしている。ドルマとは、スパイスや野菜で炊いたご飯の詰め物のこと。葡萄の葉のドルマ、ズッキーニ、茄子、キャベツ、トマト、玉葱にも詰めてある。甘酸っぱいタマリンドの香りがする。いったい何人分だろう。皿は直径50pくらいある。その皿に山盛りだ。私一人興奮して写真を撮っていると、8歳と6歳位の男の子達が私をつつきながら、「クッペ」と言って茶色の卵形のものを差し出した。