2001年07月16日
キ・エ?(どなた?) (イタリア編 その2)
「キ・エ?(どなた?)」
「ユーコ!!チャーオ!!」
マリアジーナはロレータの家のブザーをたて続けに押して、今日も私の名を騙る。本当にやめてやめてほしい。
毎夜閉店近くに、レストランの裏口に来ておしゃべりをしていくロレータは、お隣りさんだ。マリアジーナとロレータの家にお邪魔する。中世そのままの外観どおり、アンティーク家具に囲まれたおしゃれな家だ。ロレーヌのご主人は裁判所に勤めていて、今は退職している。オリンピックの水泳選手だった若い頃の写真が、いっぱい飾ってある。ここでお菓子をご馳走になった。同居しているおばさんがシシリー出身と言うことで、ついでに作り方も教えてもらい、一緒に作ることになった。
僧院で昔よく作られていたおやつということだ。塩少々入れ、少し多めの水で米を茹でる(米二百五十g)。茹で上がったらオレンジの皮を少々すり卸して加える。こうすることにより、お米をやわらかい状態に保つそうだ。ここへ小麦粉百g入れよくまぜる。平たくのばして親指大にカットする。これをオリーヴ油で色よく揚げたら皿に並べ、熱した蜂蜜をたっぷりかけ、シナモンを振る。イタリア風かりん糖のようだ。私にはちょっと甘すぎてたくさんはいただけない。オレンジの皮のせいか、長いおしゃべりの後に食べても固くなっていなかった。
ローマとフィレンツェの間にある中世の町オルヴィエートの「きつねとぶどう」という名のレストランに、この夏休み無給で働きに来て今日で四日目。仕事もメニューも覚えたところだ。今夜は忙しそうだ。電話が多い。
マリアジーナと二人で広い調理場をかけ廻る。普段は感情が安定していて、大らかで、冗談ばかり言ってるマリアジーナがちょっと恐い。どなってばかりいる。私だって一所懸命やってるのよ!ものすごい早さで作ってるのに・・・・。二十八人ほとんど同時に入ってくるんだもの。たった二人で作ってるんだもの。どならないでよ!
やっと落ち着いて山のような洗い物をしていると、ロレータがやってきて手伝ってくれる。次々に近所の主婦達がやってきておしゃべりが始まる。犬達もやってきてパルミジャーノチーズの皮を撒く。毎夜の日課だ。
ルーカが私をそっと呼ぶ。
「ユーコ、あいつらはおばさんだ。僕は若い。話が合わない」(私はどっちかというと、そのあいつらと年が近いんだけど)
「一緒に散歩して僕の友達のレストランへ行こう。とってもステキなんだ。今日はおしゃべりはするな。すぐホテルに帰れ、十二時に迎えに行くから。わかったな」と、怒ったように言う。毎日誘われていはいたが、近所の主婦達とのコミュニケーションも私には大切だし、ルーカのいう店にも行ってみたいし、今日はルーカに付き合うかぁ。
木曜と土曜の朝に市が立つポポロ広場をぐるっと廻って、レプブリか広場に出る。夜中まで開いてるテントの本屋さんがある。ここ料理の本一冊と絵葉書を買う。広場のカフェテラスは夜遅くまで、人でいっぱいだ。その広場の奥のレストランだ。
イタリアはどんな田舎にもおしゃれな店がある。ここルーカの友人の店も、奥さんがイギリス人のせいかイギリスのパブ風でブラウン基調のシックな店だ。私達は広い中庭でビッラ(ビール)を注文した。犬を連れた人が多い。夜中の一時だというのに、調理場からヘビーな料理がどんどん運ばれていく。
ルーカは二十歳の頃からロンドンに住み、二十一歳で年上のイギリス人と結婚し、二人の子供が出来た。七年後離婚し、ひとり故郷のオルヴィエートに戻った。朝から酒に溺れ、ワインコンサルタントの仕事もやめなければならなくなった。婚約者もいたが、喧嘩ばかりの末別れたとか。「女はわからない。あいつはパッツァだ!(頭がおかしい)」と叫ぶ。そんなこと言われても・・・・。今は休日の前夜と休日以外酒は飲まないらしい。朝と夕方の一時間づつ、コーチについてテニスをしている。立ち直っている段階とみた。皆んな平和そうな毎日を繰り返してるように見えるけど、いろいろあるんだ。
さっき買った絵葉書を見せて「ルーカ。これもオルヴィエート?」と聞くと「違う。これはチビタ・ディ・バノレッジョだ。近くにある村だ。次の休みに行こう。ここで夕食をしよう」と言う。「ベーネ(いいね)。ボニデア(グッドアイディア)」と言うことで、定休日の月曜日に行くことになった。小高い山の頂上に古い小さな村があり、吊り橋のような細い長い道が続いている。道の両端は断崖絶壁のようだ。
昼の一時に待ち合せてルーカと昼食をした。ポポロ広場の裏手にあるこの店のシェフとマリアジーナは犬猿の仲だそうだ。内緒にしても連れて行ってくれるのだから、おいしいのだろう。「パンナコッタ」というスープがお薦めらしい。う、うますぎる。ものすごい量だけど、おかわりしたくなる。トマトベースの熱々スープにパンが浸してある。この店で、働きたいなぁ・・・・。
夕方、ルーカの友人のエンツォとアントネッラと四人でチビタ・ディ・バノレッジョへ伺う。途中郊外にあるマリアジーナの家に寄った。道路添いとはいえ、お隣りに一件家があるのみの静か過ぎる一軒家だ。入り口の大きな鉄の扉に"猫に注意"とあるのが楽しい。広い庭は、花とフルーツと猫でいっぱいだ。淋しいというより、ひとりで恐くないのかしら。
マリアジーナが私を台所へ招く。「電気が切れちゃって。ちょっと暗いけど」目の前にまっ白な鳩が三羽、ボーッと浮いて見える。弟さんが今朝届けてくれたそうだ。「明日はこの鳩にソーセージと鳩の内臓とサルビアの葉を詰めるのよ」へぇー。おいしそうだ。「ユーコ!アンディアーモ(行きましょう)」鳩に後ろ髪をひかれながら出発した。
「ユーコ!!チャーオ!!」
マリアジーナはロレータの家のブザーをたて続けに押して、今日も私の名を騙る。本当にやめてやめてほしい。
毎夜閉店近くに、レストランの裏口に来ておしゃべりをしていくロレータは、お隣りさんだ。マリアジーナとロレータの家にお邪魔する。中世そのままの外観どおり、アンティーク家具に囲まれたおしゃれな家だ。ロレーヌのご主人は裁判所に勤めていて、今は退職している。オリンピックの水泳選手だった若い頃の写真が、いっぱい飾ってある。ここでお菓子をご馳走になった。同居しているおばさんがシシリー出身と言うことで、ついでに作り方も教えてもらい、一緒に作ることになった。
僧院で昔よく作られていたおやつということだ。塩少々入れ、少し多めの水で米を茹でる(米二百五十g)。茹で上がったらオレンジの皮を少々すり卸して加える。こうすることにより、お米をやわらかい状態に保つそうだ。ここへ小麦粉百g入れよくまぜる。平たくのばして親指大にカットする。これをオリーヴ油で色よく揚げたら皿に並べ、熱した蜂蜜をたっぷりかけ、シナモンを振る。イタリア風かりん糖のようだ。私にはちょっと甘すぎてたくさんはいただけない。オレンジの皮のせいか、長いおしゃべりの後に食べても固くなっていなかった。
ローマとフィレンツェの間にある中世の町オルヴィエートの「きつねとぶどう」という名のレストランに、この夏休み無給で働きに来て今日で四日目。仕事もメニューも覚えたところだ。今夜は忙しそうだ。電話が多い。
マリアジーナと二人で広い調理場をかけ廻る。普段は感情が安定していて、大らかで、冗談ばかり言ってるマリアジーナがちょっと恐い。どなってばかりいる。私だって一所懸命やってるのよ!ものすごい早さで作ってるのに・・・・。二十八人ほとんど同時に入ってくるんだもの。たった二人で作ってるんだもの。どならないでよ!
やっと落ち着いて山のような洗い物をしていると、ロレータがやってきて手伝ってくれる。次々に近所の主婦達がやってきておしゃべりが始まる。犬達もやってきてパルミジャーノチーズの皮を撒く。毎夜の日課だ。
ルーカが私をそっと呼ぶ。
「ユーコ、あいつらはおばさんだ。僕は若い。話が合わない」(私はどっちかというと、そのあいつらと年が近いんだけど)
「一緒に散歩して僕の友達のレストランへ行こう。とってもステキなんだ。今日はおしゃべりはするな。すぐホテルに帰れ、十二時に迎えに行くから。わかったな」と、怒ったように言う。毎日誘われていはいたが、近所の主婦達とのコミュニケーションも私には大切だし、ルーカのいう店にも行ってみたいし、今日はルーカに付き合うかぁ。
木曜と土曜の朝に市が立つポポロ広場をぐるっと廻って、レプブリか広場に出る。夜中まで開いてるテントの本屋さんがある。ここ料理の本一冊と絵葉書を買う。広場のカフェテラスは夜遅くまで、人でいっぱいだ。その広場の奥のレストランだ。
イタリアはどんな田舎にもおしゃれな店がある。ここルーカの友人の店も、奥さんがイギリス人のせいかイギリスのパブ風でブラウン基調のシックな店だ。私達は広い中庭でビッラ(ビール)を注文した。犬を連れた人が多い。夜中の一時だというのに、調理場からヘビーな料理がどんどん運ばれていく。
ルーカは二十歳の頃からロンドンに住み、二十一歳で年上のイギリス人と結婚し、二人の子供が出来た。七年後離婚し、ひとり故郷のオルヴィエートに戻った。朝から酒に溺れ、ワインコンサルタントの仕事もやめなければならなくなった。婚約者もいたが、喧嘩ばかりの末別れたとか。「女はわからない。あいつはパッツァだ!(頭がおかしい)」と叫ぶ。そんなこと言われても・・・・。今は休日の前夜と休日以外酒は飲まないらしい。朝と夕方の一時間づつ、コーチについてテニスをしている。立ち直っている段階とみた。皆んな平和そうな毎日を繰り返してるように見えるけど、いろいろあるんだ。
さっき買った絵葉書を見せて「ルーカ。これもオルヴィエート?」と聞くと「違う。これはチビタ・ディ・バノレッジョだ。近くにある村だ。次の休みに行こう。ここで夕食をしよう」と言う。「ベーネ(いいね)。ボニデア(グッドアイディア)」と言うことで、定休日の月曜日に行くことになった。小高い山の頂上に古い小さな村があり、吊り橋のような細い長い道が続いている。道の両端は断崖絶壁のようだ。
昼の一時に待ち合せてルーカと昼食をした。ポポロ広場の裏手にあるこの店のシェフとマリアジーナは犬猿の仲だそうだ。内緒にしても連れて行ってくれるのだから、おいしいのだろう。「パンナコッタ」というスープがお薦めらしい。う、うますぎる。ものすごい量だけど、おかわりしたくなる。トマトベースの熱々スープにパンが浸してある。この店で、働きたいなぁ・・・・。
夕方、ルーカの友人のエンツォとアントネッラと四人でチビタ・ディ・バノレッジョへ伺う。途中郊外にあるマリアジーナの家に寄った。道路添いとはいえ、お隣りに一件家があるのみの静か過ぎる一軒家だ。入り口の大きな鉄の扉に"猫に注意"とあるのが楽しい。広い庭は、花とフルーツと猫でいっぱいだ。淋しいというより、ひとりで恐くないのかしら。
マリアジーナが私を台所へ招く。「電気が切れちゃって。ちょっと暗いけど」目の前にまっ白な鳩が三羽、ボーッと浮いて見える。弟さんが今朝届けてくれたそうだ。「明日はこの鳩にソーセージと鳩の内臓とサルビアの葉を詰めるのよ」へぇー。おいしそうだ。「ユーコ!アンディアーモ(行きましょう)」鳩に後ろ髪をひかれながら出発した。

